看板屋の恋

第91回文学界新人賞 都築隆広 看板屋の恋

三鷹駅までいつも葬儀屋の案内看板を持って立つハーフの若者ジェイと大学受験を失敗し小説家を目指す主人公はある日立場を入れ替えて生活をするようになる。主人公の提案だった。そして主人公の男は下宿先の大家の娘と恋をする。一方、仕事から解き放たれたジェイは高校生活を送りながら今まで縁のなかった小説の世界に触れガルシアマルケス百年の孤独をとりつかれたように読みふける。しかし、大家の娘を奪われて絶望しながらも、まだ見ぬ父親の姿を思い浮かべるのだった。ジェイの父親は葬儀屋の社長だが、その妻が不貞を犯して生まれたのがジェイで、その母親が亡くなりジェイの父親が誰なのか分からず仕舞いだった。国木田独歩の文を引用しながら、吉祥寺に代表されるように学生を中心に保守的な若者が集う武蔵野を舞台に繰り広げられる汗臭さを微塵も感じさせない少女マンガ的世界。嫌味のない詩的な文章によってファンタジーに昇華させ、武蔵野という場所を物語の舞台として叙情的に築き上げた作者の腕は素晴らしい。


by文芸誌ムセイオン

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